医者が患者をだますとき


 
告白
 
 
 私は現代医学は信じない。 いうなれば医学界の異端者だ。

ほとんどの人は先端医療とは素晴らしいもので、

最新の医術を駆使する医者にかかれば、健康になれると思い込んでいる。

本書の目的は、現代医学を過信しないように

人びとを説得することである。



とはいえ、私自身はじめから異端者だったわけではない。

それどころか、かつては心から現代医学を信じていた。


医学生だったころ、DES(ジエチルスチルベストロール)という

合成ホルモン剤の研究が周囲でさかんに行われていた。

しかし、私はそれに疑いを抱かなかった。

現代医学を信じていたからである。

この薬を妊娠中に服用した女性から産まれた子どもたちのあいだに、

二十年程経って膣がんや生殖器の異常が多発することになるとは、

当時、誰が予想していただろうか。


 研修医だったころ、未熟児に対して酸素療法が行われていた。

しかし、私はそのとき疑いを抱かなかった。

最新の医療設備を誇る病院でこの治療を受けた低出生体重児の場合、

約九割に弱視や失明という重度の視力障害が発生していた。

それに対し、医療水準が劣る近くの病院では、

この病気(未熟児網膜症)の発生率は一割以下だった。


この差について教授たちに質問をすると

「貧しい病院では正しい診断法がわからないのだ」という答えが返ってきた。

私は教授たちを信じた。


未熟児網膜症の原因が高濃度酸素の投与であることがわかったのは、

それから一、二年後のことだった。

経済的に豊かな病院では最新式の高価なプラスチック製の保育器を設置していたため、

酸素が漏れずに器内に充満して未熟児を失明させてしまったのである。

それに対し貧しい病院では、旧式の保育器が使われていた。

隙間だらけのフタがついた浴槽のような代物で、

酸素がかなり漏れていたが、それが結果的に未熟児を失明から救ったのである。

 私はそれでも現代医学を信じ続けた。


その後、ある研究グループに加わり

「未熟児の呼吸器疾患に対する抗生物質テラマイシンの使用について」

という化学論文の作成に取り組んだ。

そしてその論文の中で「この薬には副作用がない」と主張した。

当然だろう。 副作用が現れる前に論文を書けば、

どんな薬も「副作用がない」と主張できるのである。

 実を言うと、ひきつづき行った研究で、

テラマイシンだけでなく全ての抗生物質が

未熟児の呼吸器疾患にあまり効果がないことと、

テラマイシンを含めてどのテトラサイクリン系抗生物質も

数千人の子どもたちの歯を黄緑色に変色させ、

骨にテトラサイクリン沈着物を形成することを確認していた。

 私はなおも現代医学を信じ続けた。


 医者になったころ、扁桃腺、胸腺、リンパ節の病気に

放射線治療法が有効だと信じていた。 

 教授たちが

「もちろん放射線の照射は危険だが、この程度の線量ならまったく無害だ」

と言うので、私は信じたのである。



 しかしその後「全く無害」な線量でも、

十年から二十年後には甲状腺の腫瘍をひき起こす恐れがあることが判明する。



 ついに現代医学が蒔いた不幸の種を刈り取る時期が到来した。

そのとき、自分がかつて放射線で治療をした患者たちのことを思った。

その中の何人かが甲状腺に腫瘍を患い、私に頼るために戻ってくるのではないか。

 その思いにさいなやまれた。

 なぜ戻ってくるのか。 あなたたちをこんな目に合わせたのは、この私なのだ。

 私はもう現代医学を信じない。


これを読まれる皆さんへ
 
 私は本文中に引用した研究や統計の情報源を意図的に省略した。 その理由は次のとおりである。

 1.そのつど情報源を明示すると読者の集中を妨げるおそれがある。
 2.本書の主張は、情報源に関係なく人間の直感に訴える性質のものである。
 3.アメリカの医学の失敗を示す資料は、すでに公表されて広く知られている。


                                              医学博士  ロバート・メンデルソン



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